第77信
ヤレ安心と思うと、今度は、川上へ川上へと流される。それを横切るように岸へ着けようとする。横波が来て、バサッと一度かぶった時には、ちょっと嫌な気持がした。
この横波の立っている処も、もう一息で切り抜けると思った時、櫂をとめていた縄がプッツリ切れた。ヒヤッとする。船頭は早速、替え縄を出してつけた。その間に大分流された。スルト、今度は、反対側の左の縄が切れた。これも予備品で補った。若し、この縄が、あの小山のような波を乗り切る時に切れていたらと思うとゾッとする。
ヤット流され乍ら、支流の河口へ入ると、流石に波も流れも穏やかになった。
ミヤヂ・カウネ（大変よろしい）と我々が言うと、彼の船頭はニヤリと笑って、ナーレ・ケサ・ムシグ・ナムレブ・ケサ・シーデ（知っていれば、何でもないが、知らないと危険だ）と言った。（続く）
1943/09/30発信