第78信
実際、知らなければヒドイ目に遭う。今から考えると、例のポンポン船も川上の入り江に避難したものだ。桟橋へモヤッていれば、波に叩かれて破損される。岸の小サンパンの川中へ漕ぎ出したのも、我々の舟の引き返して川の中程へ出たのも、皆、此の大高潮の威力を知っていたからだ。
よくもあんな小さな舟で、あの高潮を乗り切れたものだと、初めての我々はビックリもし、感心もした。
渡し賃は、普通1人10銭だが、我々は、アンナ珍しい高潮を、而も、舟の中で見もし、体験もさして貰って、而も、無事だったので、25銭宛奮発してやったら、船頭はにやりと笑ってミヤヂ・カウネ（大変結構）と言った。
帰ってから、皆に此の話をして、決して、高潮の時には、舟に乗るなと戒めた。
以上で高潮の話は終わり。
1943/09/30発信